こんにちは、ベックジャパン動物病院グループ獣医師
GREENDOG東京ミッドタウンクリニック院長の井上です。

昨日は、代官山動物病院にて全薬工業の学術の先生をお招きし、犬の膵炎急性期用抗炎症剤「ブレンダZ」の院内セミナーが開催されました。
「ブレンダZ」とは、昨年冬に発売された新薬であり、農林水産省より動物用医薬品製造販売承認を取得しています。
犬の膵炎の急性期における膵臓の障害を抑制する目的で開発が行われ、世界で初めて承認された犬用の膵炎の抗炎症剤です。

膵炎、実はとってもこわい病気なんです。
そもそも、膵炎とは…

本来、膵臓が分泌する消化液は十二脂腸に送られてから活性化し、口から入った食べ物の消化を行います。
ですが、様々な理由により消化酵素が膵臓内で活性化してしまうことがあります。
そうすると、膵臓の強い消化液が、自身の膵臓を消化してしまうのです。(自己消化)
この反応が急激に進んでしまう病態を急性膵炎といい、緩徐に進行する病態を慢性膵炎といいます。
膵炎の急性期(急性膵炎、慢性膵炎の急性期)には、消化酵素が活性化し、膵腺房細胞の破壊の亢進、自己消化が始まります。
それにより、体内の伝達物質であるサイトカインが誘導され、好中球・マクロファージなどが活性化されることで、局所的には膵臓の炎症・浮腫・壊死や、SIRSと呼ばれる全身性の炎症反応が引き起こされることもあります。
その結果、重症の膵炎ともなるとその障害は多臓器にわたり、最終的に死に至ることもある、恐ろしい疾患です。

原因としては明らかになっていないことも多いのですが、以下の要因などがその危険因子として挙げられます。

  • 食事
    • 高脂肪食、無分別な食事など
  • 品種
    • ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャテリアなど
  • その他
    • 内分泌疾患、脂質代謝異常、薬物、機械的な膵管閉塞など

急性膵炎の症状は重症度により異なりますが、食欲不振、嘔吐、衰弱、腹痛、脱水、下痢、発熱、黄疸などが一般的です。

診断は、臨床症状(食欲不振、嘔吐など)や腹部疼痛、血液の一般検査と生化学検査、膵臓に特異性の高い膵酵素(膵特異的リパーゼなど)の血中濃度測定、腹部超音波における膵臓の異常、生検と病理組織学的検査における炎症所見の検出などから総合して判断することが推奨されています。

治療としては一般的に、輸液、制吐薬、鎮痛薬、栄養療法、その他療法(たんぱく分解酵素阻害薬、抗菌薬など)が挙げられますが、これまでに、膵炎の治療薬として承認されたものはありませんでした。

今回のブレンダZという膵炎の抗炎症薬は、その有効成分であるフザプラジブナトリウムが、先に述べたサイトカイン等の刺激を受ける好中球の受容体を阻害し、抗炎症活性を示します。
結果として、犬の膵炎急性期における臨床症状の改善を早めるといった薬効が期待されます。

1)Shikama H, Yotsuya S, Satake S, Sugi H, Kato M.: Effect of IS-741 on cell adhesion between human umbilical vein endothelial cells and HL-60 cells.Biol Pharm Bull. 1999 Feb;22(2):127-31.
2)Imamura T, Niikawa J, Kitamura K, Takahashi A, Ikegami A, Yoshida H, Tanaka S, Mitamura K.: Effect of IS-741 on ethionine-induced acute pancreatitis in rats: relation to pancreatic acinar cell regeneration.J Gastroenterol. 2003;38(3):260-7.

動物用医薬品として認可されていることは勿論、安全性の評価も広くなされており、現場の獣医師としても使用しやすい印象は受けました。

3)Brenda Z.技術資料.日本全薬工業株式会社,2018

今回セミナーを受けた感触としては、当院においても「ブレンダZ」が膵炎治療の一つの選択肢として、今後の活躍が期待されます。

獣医学の世界も日進月歩。
このような新薬だけでなく、治療法も含め日々アップデートがなされています。
今後もアンテナを張り巡らせ、新しい知見にも柔軟に、かつ安全・安心をもって獣医療がお届けできるよう、スタッフ一同精進して参ります。

明日から2日間は皮膚科学会出席のため、井上はお休みを頂いております。
またご報告で挙げますね。

それでは!