明けましておめでとうございます、獣医師の藤原です。今年もよろしくお願いします。
全国的に冬らしい寒さになっていますが、暖冬の声もあり、神石高原も例年より寒くないそうです。
降雪も少ないと地元の方がおっしゃる通り、何度か降っているものの、数日で溶けています。
とは言うものの、昨日は帰宅時の気温が-6℃。私にとって初めての神石高原の冬は十分寒いです。
近所の方からよくいただく冬野菜は、台所に数日置いておいても全く傷まないのですが、暖房しない部屋は冷蔵庫より寒いということです。
去年はもっと寒かったということを考えると、私が勤務する前に働いているスタッフはすごいなと思います。
さて、12月は近所の方から野菜をいただいても料理する時間もあまり取れず、なかなか消費できないくらい忙しい月でした。
以前もお話したように、各地の動物愛護センターでは、年末年始休みに入る前に収容している動物をほとんど殺処分されるところがあります。
去年同様、ピースワンコでは、地元の広島県・福山市に加え、湘南に譲渡センターがあることで神奈川県の動物愛護センターでも殺処分機を稼働させないために、殺処分予定の全頭を引取ることは決まっていたので、年越しもお正月もないことは分かっていましたが、それに加えていくつか大変な出来事がありました。
2015年12月の年末は3つの動物愛護センターから計31頭を引取りました。
神奈川県からは2頭だけでしたが、大型犬のためにどの保護団体からも引き取ってもらえなかったそうで、その2頭のためだけに久しく稼働していない殺処分機を稼働することが避けられて、職員の方にお礼を言われたそうです。
1年以上もセンターにいて、他の犬とトラブルも起こしたらしいですが、引取ってみると人懐こい子でした。
私が今回の2つの愛護センターからの引取りで地方によって様々な保護管理の方針の違いに気づくことができました。
神奈川県においては去勢・避妊はされているのに、混合ワクチン接種はされていないとのこと。広島のセンター内では、特にパルボウイルスの蔓延が問題なので、ワクチン接種はほぼ必須ですが、神奈川では野犬が少ないからでしょうか、そういった感染症がセンター内では発生していないので、ワクチン接種はしていないそうです。
もしかしたらこれは都会(または関東)では普通なんでしょうか?
集団管理で誤交配を避けるために去勢・避妊手術をしてくれるなら、感染症の病原体を保有する個体がいつ入ってくるか分からないので、ワクチン接種もしてくれたらいいのに、とは思いますが、対策法や考え方の違いでしょうか。
おそらく地方によって対応は様々なんですね。
忙しい時期が終わったら調べてみれば良いと思いますが、残念ながら今は余裕がなく、地元広島で精一杯です。
広島では去勢・避妊手術はしてくれないので、12月に出産した2頭はもしかしたら収容期間中の誤交配で妊娠?と疑いましたが、妊娠期間を逆算すると収容直前に受胎したようです。
ならば妊娠を自覚した野犬が人に助けを求めたのかと言うと、多分そういう訳ではなく、寒くなって獲物も減った上に妊娠で栄養要求が高まった結果、捕獲器の釣り餌の誘惑に負けて捕まったというのが実情でしょう。
さて、年末ギリギリに広島県動物愛護センターから27頭引取り、その中の1頭が残念ながらパルボウイルスに感染していました。
今回はピースワンコ施設内の隔離犬舎での治療ですが、7月の集団保護で毎日愛護センターに通ったように、帰省どころではなく年末も年始も関係なく毎日通いました。
担当スタッフは更に大変で、他の犬舎にウイルスを運ばないように犬たちと私以外の誰とも関わることなく年を越し、お正月を過ごしていました。
車も服も靴も限定して、ヤッケを着込んで長靴に履き替えて手袋をして…と7月の時と同じ対応です。
治療法もほぼ同じでした。
その時は暑さとの戦いでしたが、今回の治療は寒い中での作業でした。
日中の診察をある程度終えてから最後に隔離犬舎に行くと、寒い日の夕方などは既に神石高原は気温0℃前後です。
消毒するものを余計に増やさないためにたくさんは着込めず、暖房のかかる室内以外で管理している道具はほどよく(いえ、キンキンに)冷えていて、例えば消毒用のスプレーを頻繁に使うのですが、その度に手先が痺れました。
また日中は暖かくなるとは言え、一晩経った車内に置いていた液体は冷蔵庫で保管していたように冷たく、そのまま皮下補液するには冷たすぎるので、診療所からもう一つ温めたのものを持って行き、二つをくっつけて何とか温度を上げて使ったりしました。
陽性犬は引取り3日目から血便など典型的症状が出始め、一時調子を崩しましたが、治療を続けるうちに、幸い数日で改善が見られて、後に検査も陰性になりました。
まだ軟便が続きずいぶん痩せましたが、人に甘える余裕が出て来て安心しており、夏のパルボウイルスで失った命の悔しい経験から一つの命を守ることができたことホッとしております。
しかし、陰性になってもパルボウィルスに感染した犬がいると、隔離犬舎の収容頭数が限られる中、陽性犬と離すために陰性犬を他の犬舎に移すと、一部はギュウギュウで狭い部屋に入ってもらうしかなくなります。年末に引取った27頭中13頭は子犬で、彼らも玉突き的に犬舎移動を余儀なくされ、そのあおりで12月上旬に引取って別の感染症で隔離していた子犬の行き先がなくなり、スタッフの休憩室を提供してもらって何とか犬舎のやりくりが出来ました。
前述した2頭の出産で増えた子犬もいるため、7月の集団保護時と比べても施設の収容頭数の限界を遥かに超え、どの犬舎もいっぱいで感染・隔離と関係のない犬たちの居住空間も圧迫しています。満員電車ほどではないにしても、混んでくると多少なりともストレスを感じ神経質になるでしょう。犬同士のトラブルが起きないように、相性を考えたり監視を強化したり、一般犬舎のスタッフも気を使います。
今回の保護でとても印象に残ったのは、鎖が首に食い込んだ状態で収容された若いオスです。
引取り後の検査でパルボウイルス陰性で、引取られるまでの管理でも感染の可能性はなかったので、病院に運んで麻酔をかけて鎖を切り、二重らせん鎖に切り取られたような、鎖が食い込んで出来た壊死組織を取り除いて縫合しました。
鎖は両手の親指と人差し指で作った輪くらいの長さもなかったので、おそらく子犬の時の首の大きさで固定された鎖が、野良犬生活の間に成長とともに食い込んだのではないかと思います。
リード部分の鎖が一部残っていましたが、途中で切れて子犬の時に逃亡したのか、それとも棄てられたのか…。鎖が切れたにしてはさほど錆びていないので、棄てられたのかもしれません。どちらにせよ想像力に欠ける仕打ちですね。
虐待と言い切る人もいます。
この子は保護されたから外すことが出来ましたが、鎖に限らず、首輪を固定した子犬を逃がしたり棄てたりしたら、こんなことになり、時には命を落とすのです。
東京にいた時に、首に金属線が巻きついた野良犬の捕獲をテレビで見たことがありますが、自分の目の前で同じようなことが起こるとは。
ところが保護されたものの、傷みと環境の変化で神経質になっていた彼は、愛護センターでは触れない犬とされ、職員さんは鎖が食い込んでいるのに気付かなかったそうです。
これも可哀そう。
確かに臆病ですが、病院ではおとなしく保定されましたし、こちらが気を配れば触ることもできます。
病院に連れて行った時は私も必死だったので、噛まれるかなと思いながら保定し、上着の袖を血だらけにしながら麻酔をかけるまでの処置を受けました。
今では抜糸も済み、傷もずいぶん治りました。
今後もう少し広い犬舎に移せれば、このくらいの臆病さなら改善できるのではないかと思います。
今年6月でピースワンコの殺処分ゼロ1000日計画が期限を迎え、その達成のために春には大きな犬舎がもう一つ出来ます。
これで広島県の殺処分対象犬は全て引き取れるようになるはずです。
そのための寄付はおかげでかなり集まったそうですが、しばらくは更なる犬舎施設充実に資金を回し、医療施設充実に回せるようになるのはもう少し先でしょう。
今と同じ医療体制のままでも、犬舎が増え収容頭数は今の2倍・3倍になるそうで、忙しさもそれに比例します。
週2回手伝ってくれる先生はいますが、私と二人ではこなし切れない可能性大です。
一緒に働いてくれる獣医師があと2~3人必要ではないかと予想しています。
保護犬活動に興味のある先生がおられましたら、是非お問い合わせいただきたいと思います。
12月から1か月余りの間に子犬だけでも27頭も増えました。現在の収容頭数限界をかなり超えて保護した上に、この子たちが大きくなったら本当に入る場所がありません。
新犬舎が出来るのはまだ先です。
出来れば彼らが大きくなる前に、これからしばらくは譲渡に力を入れねばなりません。
理解ある里親さんがたくさん見つかり、子犬・成犬・老犬に限らず幸せをつかむ子が1頭でも増えるようスタッフも多忙になります。
出来る限り多くの方の協力を得て、その集約が譲渡数の飛躍に結び付けばいいなと思います。
読者の皆様にも、それぞれの出来る範囲でのご協力をお願いいたしまして、今回の投稿を終わります。
ありがとうございました。
2016年正月
ピースワンコ診療所 藤原