2015年11月
こんにちは、獣医師の藤原です。二か月ぶりの更新です。
神石高原はすっかり秋も深まり、既に初冬の寒さに思えますが、地元の方は「まだまだ寒くなる」「北海道より寒いよ」などと脅かします。なるべく厚着せずに過ごしていましたが、そろそろヒートテックの出番です。
9月後半から10月、11月と、季節の変わり目というか、高原は寒暖差が大きいので、老犬にはこたえる季節のようで、順番に調子を崩して集中的な治療や入院が必要になり、時には泊まり込むこともありました。実は今も、調子の悪そうな子がいて、今夜は犬舎に泊まることにして、隣でこれを書いています。補液や投薬では一時的な改善しか見られないので、明日は福山の動物病院に連れて行く予定です。
なぜ福山市の動物病院に連れて行くのか・・・?
それは、シェルターの診療施設「ピースワンコ診療所」は、内科治療や簡単な処置はできるものの、レントゲン検査や超音波検査などの(高額な)機械までは揃えていないので、必要な場合は福山市の動物病院まで、車で1時間弱かけてワンコを連れて行き、検査や処置をしてもらっているからです。お世話になっている病院は、福山市では規模の大きい病院ですが、症例によっては専門病院を紹介してもらって、お隣岡山県の倉敷市まで行くこともあります。
その倉敷には眼科専門外来のある病院もあり、緑内障で保護前から両眼とも視力がなく、おそらくそれで捨てられてしまった子や、生まれつき眼の構造に異常があり、片方は既に緑内障で失明し、もう片方も失明の可能性のある子が、どうも見えていないらしいということで精密検査を受けに行きました。どちらも保護犬らしからぬ性格の良さで、とっくに譲渡されていてもおかしくないくらい。ですが、障害や治りにくい持病がある子はやはり譲渡されにくく、長いことシェルターで暮らしています。なぜ保護犬が専門外来の治療を受けられるのかというと、幸い個人的にこの子たちの支援をしてくれているサポーターさんがいる(ワンだふるサポーター*1という制度があります)ので、精密検査もその後の治療を続けることも出来るわけです。加えて、高齢・病気などで譲渡が難しい子を対象に、特定のワンコを支援してくれている方(ワンだふるファミリー*2)もいて、病院通いの多い子はとても助かっています。
*1:http://peace-winds.org/zero/
*2:http://peace-winds.org/pw/wfamily/
さて、老犬が順に体調を崩して病院通いが続くという話に戻ります。元々心臓が悪くて気になる老犬がいまして、その子が落ち着いたら、それまで隣部屋で元気にしていた老犬が発熱。なかなか下がらず病院に連れて行ったら、肝臓に何か出来ているし、胃腸の動きが悪いし、酸欠だし貧血だしで入院になりました。
元気に見えていても何らかの兆候はあったと思うのですが、心臓が悪い子に気を取られ過ぎていました。老犬だから調子の良し悪しは波がある、ある程度は仕方ない、という見方もありますが、定期的な検査の必要性も感じます。でも車で1時間山道を揺られてまで検査に行く方が良いのか、結構悩みます。
10月には癌で亡くなった子がいました。皮膚腫瘍を見つけて検査に連れて行ったら超音波検査で内臓数か所に腫瘍が見つかりましたが、既に手術での回復は見込めず、終末ケアを選択しました。半月ほど闘病して亡くなった後、連絡の取れなかった元飼い主さんにようやく連絡がついて、亡くなった事をお伝えしたら、「元々ガンだったから」と初めて聞く事実…。引取り時に教えてくれていたらそれなりの検査や投薬をしたのに、表面上いつも元気だったので、そこまで詳しい検査はしていませんでした。
基礎情報がなければ頻繁に検査したわけではありませんが、こんな結果になった時は、ここに超音波検査機器やレントゲン設備があったらな、と思います。でもピースワンコのプロジェクトとしては、今は広島県の殺処分ゼロのために、収容数増加に備えて犬舎増設を目的に寄付を募り、資金を投入しているので、診療所設備に積極的に投資できる時期ではありません。私が来る前は、獣医師が来るのは週二回ですし、血液検査も全て外注で、尿検査も機械がありませんでした。それから比べると少しずつ充実して来てはいるので、将来的には、募った寄付金をもう少し検査機器などに回してもらえるようになると思いますが、今は福山の病院が頼りです。
もちろん病気の子ばかりではありません。癌の子が予見して気を使ってくれたのかと思うほどのタイミングで、亡くなった数日後に幼犬の集団が来ました。町内の軒下で野犬が産んだそうですが、もう少し母犬に軒下を貸してあげてくれたら良かったのに、生後1カ月余りで母犬から引き離されてしまいました。また数時間おきの哺乳・離乳食のためスタッフは寝不足です。でも今がかわいい盛り。癒されます。
現在までには、入院していた老犬は退院し、点滴機を借りて治療を続けた結果、まだ介護は必要なもののずいぶん元気になりました。ホッとした途端、心臓の悪い老犬が調子悪くなり、いま隣に寝ているわけです(ちなみに反対側には愛犬さくらが寝ています)。もう朝ですが、少し呼吸も落ち着いてきました。このまま病院が開くのを待って、予約してある他の二頭と一緒に山を降ります。
子犬が下痢して食欲が落ちただけでも泊り込んで、先輩獣医師に「泊り込むほど?」と言われますし、今回も杞憂かも知れません。でもこんな生活にも慣れてきました。7月にパルボで2週間も帰らなかった時に比べたら短いので、心配な時は一晩様子を見ていますが、年末にはおそらく集団保護が待っています。その中にまたパルボ感染があったら…。お正月がなくなりますね(笑)