こんにちは。GREENDOG東京ミッドタウンクリニック院長の井上です。
ここでは自分の備忘録もかねて、コラム形式で論文を紹介していきます。

今日は下痢症について、新しい治療法のお話。

動物の身体に住み着いている微生物は、絶妙なバランスを保って共生関係を保っていることが知られています。中でも腸内の細菌は多量に存在し、腸内細菌全体で1つの臓器と言っても大げさではありません。

ひとたびこのバランスが崩れると、腸疾患を含めた様々な病気を発症することが近年の研究で明らかになってきています。そのため、腸内細菌叢(腸内フローラ:腸の中のお花畑)という言葉が様々なメディアで取り上げられるようにもなりました。

糞便移植というのは、バランスの乱れにより病気を発症した患者さんの腸内環境を、健康な人の便をもらって整備しようという発想の治療法です。

とくに、Clostridium difficileという菌の異常繁殖による下痢や血便を生じる病気に対して、今までの治療法を大きく上回る効果を発揮したことが知られたことから注目されています。

どうやらこの手法、犬でも有効そうだよ。という報告があがっております。

Oral faecal microbiota transplantation for the treatment of Clostridium difficile-associated diarrhoea in a dog: a case report.
Sugita K, Yanuma N, Ohno H, Takahashi K, Kawano K, Morita H, Ohmori K. BMC Vet Res. 2019 Jan 7;15(1):11.

「イヌにおけるクロストリジウム・ディフィシル関連性の下痢の治療の為の、経口糞便微生物叢移植症例の報告」

この報告では、1症例ではありますが、C.difficileによって引き起こされた大腸炎と診断された犬に対して、健康なビーグル犬から得られた糞便溶液を経口投与(!)した場合に、便の粘稠度、排便の頻度、血液の量が、投与後2〜3日で正常になり、検査上もC.difficileが検出されなかったとのことです。
結論として、健康な糞便の経口投与がイヌにおけるC.difficile関連下痢の有効な治療法であることを実証し、イヌにおける他の胃腸疾患に対する経口糞便移植の臨床的有効性を評価するための理論的根拠を提供する。としています。

健常犬の糞便の経口投与(!)という点が驚きですが、非常に興味深い結果が出ていますね。更に症例が集まり、他の疾患への適応も含め広く検討されていくと素晴らしいですね。

もしかしたら近い将来、犬の糞便バンクのようなものが登場するかもしれません…いずれにせよ、治療・予防の選択肢が充実していくことは喜ばしいことです!

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