こんにちは。

GREENDOG東京ミッドタウンクリニック院長の井上です。

本格的に暑さも増し、パートナー共につらい季節が続きますね。

こまめな水分補給など熱中症対策はもちろんですが、この時期気になるスキンケアもお忘れないよう。

今回は犬のスキンケアに重要な、シャンプー療法について皮膚科獣医の目線からお話をしたいと思います。

シャンプーとは

シャンプーとは、主に陰イオン系の界面活性剤であり、犬の皮膚や被毛に付着する鱗屑(ふけ)、アレルゲンなどの異物、汚れや微生物などを洗浄する製品として、広く使用されています。

人では主に頭髪、頭皮を洗浄する目的ですが、犬ではほぼ全身が被毛に覆われているため、全身の洗浄が適応です。

猫では犬よりも毛が密生しており、グルーミングの習性もあるので、通常はシャンプー療法を行いません。

シャンプーには

  1. 美容的な洗浄
  2. 皮膚特性に配慮したスキンケア
  3. 皮膚病治療

という3つの目的があります。

 

美容的な洗浄

長毛種や屋内飼育のパートナーに対し、美容的な側面からシャンプーをすることは多いですね。

健常な皮膚を有する犬では、ブラッシングだけでも清潔な被毛を保てますが、より美しい状態の保持にシャンプー剤を用いた洗浄が有効です。

シャンプーをすること自体で問題が生じることはあまり多くはありませんが、肌に合わない製品の使用、過剰な洗浄、シャンプー時の皮膚の損傷、ドライヤーでの過乾燥などには注意が必要です。

この場合、目的はあくまでも美しい容姿を保つことにあり、洗浄の頻度は汚れや臭いに合わせて行います。

犬種や個々の環境、生活スタイルにもよりますが、月に1〜2回程度で良いでしょう。

皮膚の特性に配慮したスキンケア

現在、世界には多種多様な犬種が存在し(300種以上とも)、本来は寒冷地や乾燥地で生活する種が日本で生活していることも少なくはありません。

そのため、本来の環境に適した皮膚が、日本での夏の高温多湿や冬の寒冷乾燥に順応できず、いわゆる「フケ性」や「あぶら性」が強く出てしまうこともあります。このような場合にも、シャンプーは有効です。

また、最近はシャンプーだけでなく、犬用の優秀な保湿剤も多数見られます。

デリケートな犬の皮膚は、シャンプーによって汚れとともに天然の保湿成分も奪われてしまい、かえってその後のフケ症やあぶら症が強調されてしまうこともあります。

そのような状況では、皮膚に合う保湿剤をシャンプー後の仕上げに用いることも、大切なスキンケアと言えるでしょう。

外用療法としてのシャンプー

犬では、ほぼ全身の皮膚が被毛で被われていることからも、外用薬としての軟膏やクリーム剤の塗布が難しいことが多いです。

さらに、体表に残存する油性の基剤(軟膏やクリームの成分)は自身への刺激となり、局所を舐めこわしたり、こすって皮膚症状を悪化させてしまうこともあります。

そのため、犬の皮膚病治療では、外用療法としてもシャンプー療法が治療の中心になっています。

さらに、皮膚病の治療を目的としたシャンプー療法が適切に行なわれると、治療期間の短縮や使用薬剤を少なくすることも可能です。

・抗生剤と同等の効果?
Effectiveness of a combined (4% chlorhexidine digluconate shampoo and solution) protocol in MRS and non-MRS canine superficial pyoderma: a randomized, blinded, antibiotic-controlled study.
Vet Dermatol. 2015 Oct;26(5):339-44
表在性の膿皮症に対して、抗生剤(アモキシシリンクラブラン酸)1日2回4週間を用いた群(n=22)と、薬用シャンプー(4%クロルヘキシジン)週2回と毎日の保湿ローションを行なった群(n=31)の比較で、臨床スコア、痒みレベルに群間の有意差がなかった。

上記研究では、皮膚の細菌感染症に対して、抗生剤を用いた場合と、薬用シャンプーと保湿剤を行なった場合で同等の治療成果があったとする報告です。

近年、抗生剤に対しての薬剤耐性菌の増加は、動物医療においても深刻な問題となっています。

この結果は、皮膚疾患に対して抗生剤の代替療法としてのシャンプー療法の有効性を強く支持するものと考えられます。

シャンプー療法、侮れません…!

シャンプー療法の実践

美容目的を除くシャンプー療法では、個別に洗い方の調整が必要なため、原則としてパートナーの皮膚を毎日観察できるご家族に洗ってもらうことを推奨しています。

シャンプー療法の頻度は、軽〜中度の症状で週に1回ほど、重い症状では週に2回ほど実施します。

自宅での実施が難しければ、かかりつけ病院や、サロンの方に相談をしましょう。

実施にあたっては、洗浄時の刺激によるかゆみや皮膚の赤みにも注意が必要です。

皮膚への刺激が予想される場合は、初めに限局的な洗浄(例えばお腹の一部位に薬剤を塗布してみる)を行ない、皮膚に異常が生じないことを確認してから全身を洗いましょう。

問題が生じた場合には即座に洗浄し、その後の治療を中止してください。

その子に合ったシャンプーを

どのような低刺激を謳うシャンプーや保湿剤でも、その子に合うかどうかは使ってみなければわかりません。

新しい薬剤を用いる際には、その事を念頭に置き、慎重に見極めるようにしましょう。

また、病院で処方される薬用抗菌シャンプーに関しては、使用のタイミングを見極めることも重要です。

細菌感染症に対して薬用抗菌シャンプーを処方され、皮膚症状が改善した場合には、使用は控えるようにしましょう。

健常な皮膚に抗菌効果を有するシャンプーを使い続けることが、逆に刺激になってしまう場合もあります。(薬剤によります)

使用のタイミングや薬用シャンプーの種類については、かかりつけの獣医さんに相談してみてください。

シャンプー療法から得られるメリットは非常に大きいですが、正しく行わなければ逆に症状を悪化させてしまう原因にもなりかねません。

次回は、実際のシャンプー療法の推奨手順についてもお話ししたいと思います。

皮膚症状も悪化しやすいこの時期、適切なスキンケアと共にこの季節を乗り越えるようにしましょう。